大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)3335号 判決 1979年6月28日

原告

安田行成外九名

右原告ら訴訟代理人

山本朔夫

外九名

被告

日本中央競馬会

右代表者理事長

武田誠三

右訴訟代理人

水野祐一

外三名

被告

右代表者法務大臣

古井喜実

右指定代理人

服部勝彦

外四名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

第一当事者間に争いのない事実。

請求原因一、1の事実(編注・被告中央競馬会の設立、組織、被告国の中央競馬会に対する監督的地位)は当事者間に争いがなく、同一、2の事実のうち、被告競馬会が名古屋市中川区西古渡町五丁目一番地に場外設備(本件場外馬券売場)を設置していることは当事者間に争いがない。

第二原告らの居住ないし職業関係。

<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、<る。>

一原告大滝良一は昭和二二年頃から名古屋市中川区西古渡町六丁目六番の二(別紙図面表示①の場所)に居住し、木材販売業を営んでいる者であるが、その店舗兼居宅のある右①の場所は、本件場外馬券売場の南東約一八〇メートルの地点に位置している。

二原告田畑和宏は昭和四四年以前から名古屋市中川区西古渡町六丁目一六番地に所在する山岸段ボール内(別紙図面表示②の場所)に居住し、同段ボールに勤務していたが、昭和四七年五、六月頃他に転居した。右②の場所は本件場外馬券売場から南方約二〇〇メートルの地点である。

三原告加藤一成は、昭和三〇年頃から本件場外馬券売場に近い南方約九〇メートル付近の名古屋市中川区西古渡町六丁目一九番地(別紙図面表示③の場所)に居住し、製函業を営んでいたが、昭和四六年六月頃長男加藤吉眞佐の家族を残して、次男とともに愛知県小牧市大字大草字清水洞二、三〇五番地へ転居した者であり、その後右③の場所では右長男が製函業を営んでいるものの、同原告自身もはや同所での生活、営業の本拠を有していない。

四原告小野徳美は、昭和三〇年頃から名古屋市中川区八幡町一丁目二九番地(別紙図面表示④の場所)に居住し、竹材業を営んでいる者であり、その場所は本件場外馬券売場から北西約二〇〇メートル付近である。

五原告金井謙次は、昭和二六年頃から名古屋市中川区八幡町四丁目一五番地(別紙図面表示⑤の場所)に居住している者であるが、その場所は本件場外馬券売場からかなり離れた北西約五〇〇メートルの地点付近になる。なお、同原告は昭和五〇年頃まで兄の営む自動車解体業を手伝い、その後は自動車部品回収業手伝のほか、建築工事の労務者として働いている。

六原告中村立は、昭和三六年頃から本件場外馬券売場のほぼ西方約一八〇メートルの名古屋市中川区西古渡町五丁目一三番地(別紙図面表示⑥の場所)に居住し、左官業兼クリーニング取次業を営んでいたが、昭和四八年一二月頃、名古屋市瑞穂区雁道町二丁目一三番地に転居し、右営業も同時に辞めた。

七原告安田行成は、戦前満州に移住していたほか、子供の頃から名古屋市中川区西古渡町五丁目一三番地(別紙図面表示⑦の場所)に居住して、その後一時、三重県四日市市笹川七丁目五一番地の九に転居したが、昭和四八年八月頃再び右⑦の場所に転入し、居住している者であり、右⑦の場所は前記⑥の場所から東へ約一〇メートルの地点に位置している。

八原告兵藤清子は昭和七年頃から前記⑥の場所から南東約一〇メートル付近の名古屋市中川区八幡町二丁目二番地(別紙図面表示⑧の場所)に居住している。

九原告阿部舜一は昭和二七年頃から名古屋市中川区尾頭橋通二丁目一四番地(別紙図面表示⑨の場所)に居住し、クリーニング業を営んでいる。なお右⑨の場所は、本件場外馬券売場からかなり離れた南西約三六〇メートルの地点に位置している。(なお。成立に争いのない乙イ第六一号証の八(住民票)によれば、阿部舜一が昭和四九年八月三日瀬戸市大字山口字大坂六四六番地の一三九へ転出した旨の記載があるが、原告阿部舜一本人尋問の結果によれば、同原告は、形式的に右のように住所を移したにすぎないことが認められる。)。

一〇原告佐合米次郎は、名古屋市熱田区一番町に居住し、昭和四四年以前から名古屋市中川区西古渡町六丁目三一番地(別紙図面表示⑩の場所)愛知機器株式社会に勤務していたが、昭和四七年頃、同社を退職して、現在は同社に勤務していない。なお、右⑩の場所は本件場外馬券売場から南西約二四〇メートルの地点に位置している。

第三本件場外馬券売場周辺の環境。

<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ、<る。>

一本件場外馬券売場は、別紙図面に示すとおり名古屋市中川区西古渡町五丁目一番地の敷地約四、四三三平方メートル上に建築された鉄筋コンクリート造五階建「友豊ビル」内にあり、その北側は道路を隔てて北西方面から南西方面に向けて斜めに国鉄東海道本線、中央本線、名鉄本線(各復線)が走る堤状の線路敷となつており、西側には右線路下のガードをくぐつて南北に走る幅約五〇メートルの八千代通(江川線)があり、また、東側には堀川が流れ、南側は、「東海重量作業所」、中川消防署尾頭橋出張所、阿部製作所等の敷地と接している。

二前記八千代通を境として、本件場外馬券売場のある名古屋市中川区西古渡町の五丁目、六丁目の各東半分は、建築基準法に定める工業地域に属し、同町五丁目、六丁目の各西半分と八幡町一丁目ないし六丁目、尾頭橋通一丁目ないし三丁目一帯は同法の定める商業地域であり、その北方には、前記の国鉄東海道本線、中央本線、名鉄本線が走り、右地区の更に西方には国鉄東海道新幹線と東臨港線が南北に走り、それを越えた西側には名古屋球場(旧中日球場)がある。右地域のうちの北及び西方、右鉄道沿線一帯には、工場、作業場、木材置場、倉庫、店舗、事務所、住宅等が混在し、南方の尾頭橋通二丁目、その西方に続く三丁目の尾頭橋通は、市場、スーパーマーケット、パチンコ店、小売店等が並ぶ繁華街をなし、また、右地域の中央部の廓公園周辺はトルコ風呂、旅館、バー等が散在する遊興街となつている。

第四本件場外馬券売場の移転の経緯、施設の概要等。

一<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ、<る。>

1  被告競馬会は昭和三四年一一月頃から名古屋市中区矢場町三丁目三五番地に日本中央競馬会場外勝馬投票名古屋発売、払もどし金交付所(いわゆる場外馬券売場)を設置し、その業務を営んでいたが、右馬券売場は、敷地面積が一、一九八平方メートル、建物が鉄筋コンクリート造地上二階建床面積延一、四七八平方メートルのもので、しかも発売窓口が一一〇窓しかなかつたため、近年の競馬ファンの増加につれてその設備が次第に狭隘になり、また、所轄消防署から建物の不備、改善を勧告されていたほか、同所が名古屋市内の主だつた商店街の大須、栄に近く、有名競馬レースの際には甚しい雑踏、混乱を招いて地元住民等に迷惑をかける事態になりかねない事情にあつたことなどから、昭和四二年初頃より右場外設備の移転が計画されるとともに、昭和四三年秋頃にかけてその移転先として三つの候補地が選ばれ、本件場外馬券売場もその最有力候補地として選定が進められた。

2  この移転計画を知つた名古屋市中川区西古渡南部町内会の原告安田行成らは、昭和四三年六月頃から場外馬券売場設置反対会の名称で一部地元住民と協議を重ねて前記場外設備移転設置反対の運動を起こし、反対者の署名を集めて陳情書を愛知県知事に提共するなどして右反対運動を進めた。

3  他方、右の移転計画、候補地の選定が進むにつれ、右地域の八熊学区、八幡町、尾頭橋通等の地元商店会等からは、西古渡町を含め同地域一帯の開発が遅れ、商店街として低調を極めているところより、その発展、開発を求める気運も大いに高まり、昭和四三年九月、一〇月頃にかけて八幡新町商店街振興組合長山田助治郎、中川区商店街連合会長早瀬慶一を各筆頭者とする多数人連署の前記場外設備設置賛成の陳情書が二回にわたり被告競馬会に提出された。

4  このような情況下において、被告競馬会は、同年一一月二七日付をもつて農林大臣に対し本件場外馬券売場設置の申請をし、その前後には地元中川区八熊学区区政協力委員会委員長、同学区一六ケ町内会連合会、尾頭八幡商業連合会各会長(以上兼職)山田助治郎、中川区尾頭橋商店振興組合理事長藤井富雄、同区尾頭橋三丁目商工部会長加藤保則連署の移転設置同意書、同区西古渡南部町内会会長伊藤博一外二名連署の右同意書を徴してその地元の賛意を確認し、右申請に対する農林大臣の承認を待つたが、その後原告安田の場外馬券売場設置反対会世話人代表名義による設置反対のビラ配布、同原告らによる農林省に対する右同旨の陳情等もあり、更にその頃当時業務をしていた前記矢場町の場外馬券売場付近の地元住民から同設備設置保存の運動も起つて、その意見調整に手間どるなどの事情から農林大臣の承認が遅れ、結局昭和四四年一一月一六日付農林省指令四三畜B第三九一四号をもつて右農林大臣の承認があり、本件場外馬券売場は同日から右移転場所での業務を開始した。

5  本件場外馬券売場のある建物(友豊ビル)は、

鉄筋コンクリート造地上五階塔屋二階建地上一階

2,776.577平方メートル

同 二階

2,894.529平方メートル

同 三階

2,894.529平方メートル

同 四階

2,520.826平方メートル

同 五階

2,520.826平方メートル

塔屋一階

296.304平方メートル

同 二階

183.993平方メートル

合計

14,060.584平方メートルであり、訴外名古屋友豊株式会社が所有し、そのうち地上二階87.6平方メートルを除く全部を被告競馬会が賃借し、これを本件場外馬券売場として使用しており、その発売窓口数は二階、三階、四階、五階のいずれも八五窓、計三四〇窓となつている。

二本件場外馬券売場における業務の大要が次のとおりであることは原告らもこれを明らかに争わない。

1  勝馬投票券の発売。

関西ブロックの各競馬場で行なわれる競馬及び東京、中山各競馬場で開催される八大競走(桜花賞、さつき賞、オークス、ダービー、菊花賞、天皇賞、春・秋、有馬記念)に対する勝馬投票券を毎週土曜日、日曜日、祝祭日の午前九時から午後三時半頃まで発売する。

2  的中勝馬投票券の払戻し。

的中勝馬投票券(いわゆる当り券)は、当該レース開催日から一年間有効であるが、本件場外馬券売場においては、毎週月曜日、水曜日、木曜日、金曜日の午前一〇時から午後三時までの間、当り券と払い戻金との交換をしている。

また、土曜日、日曜日、祝祭日にも、勝馬投票権の発売と併行して、午前九時から午後三時頃までの間、当り券と払い戻金との交換をしている。

第五被害の実情について。

一まず、鑑定人富永正文の鑑定の結果等に顕れた昭和四八年九月初旬当時の本件場外馬券売場付近の路上駐車、交通渋滞、騒音の状態について検討する。

1  路上駐車について。

(一) 鑑定人富永正文の鑑定の結果によれば、右鑑定人は昭和四八年九月一日(土曜日、競馬開催日)、二日(日曜日、同)四日(火曜日、競馬非開催日)、六日(木曜日、同)、八日(土曜日、同)、九日(日曜日、同)に別紙調査地点・地域一覧記載のないしの各地域(以下、地域の例による。)、合計一一ケ所における路上駐車台数の計測を午前八時、一〇時、一二時、午後二時、四時、六時の各時点を基準にして行なつたが、その結果は別紙路上駐車台数調査表No.1ないしNo.7記載のとおりであり、右調査結果から右各地域について次のような駐車の情況が認められる。

地域

同地域は本件場外馬券売場のすぐ東側堀川沿いの道路であり、開催日における本件場外馬券売場営業時間中の路上駐車は殆んどないが、非開催日には日曜日を含めて一ないし五台の駐車が認められる。

地域

同地域も右地域の南方、堀川沿い道路で本件場外馬券売場に比較的近いが、開催日、非開催日を通じて路上駐車の台数は非常に少なく、開催日と非開催日との間に顕著な差異は認められない。

地域

これも右地域のすぐ西側の路地で、比較的近いが、開催日には一五台を中心にして最高一九台、最低七台、非開催日には最高一三台、最低七台の路上駐車があり、開催日と非開催日との間にかなりの差異が認められる。

地域

同地域は本件場外馬券売場の南方、八千代通東側路上で極めて近く、開催日においては、非開催日より路上駐車の台数がかなり多いけれども、最高一二、三台に止まる。それに対し、非開催日の日曜日(九月九日)においては路上駐車の台数は午後六時の時点で一八台あるが、その他の時間の調査時点では皆無である。

地域

右地域の反対側、八千代通り西側路上であり、開催日においては、非開催日に比し路上駐車台数が極めて多く、一〇台前後から最高一九台に達しているが、非開催日では、二、三台に止まる。

地域

本件場外馬券売場から南西方やや離れた町中の道路であり、開催日、非開催日を通じて路上駐車が極めて多いが、とりわけ開催日には二〇台以上、最高三三台の例まであり、非開催日には二〇台前後の例が多く、最高二七台となつていて、開催日の方がより駐車数の多いことが知られる。

地域

本件場外馬券売場からかなり離れた尾頭橋通南側の道路であるが、開催日、非開催日を通じて路上駐車は殆んどない。

地域

本件場外馬券売場に近い場所であるが、開催日、非開催日とも常時一〇台前後の路上駐車が認められ、しかも、開催日より非開催日の方が若干多いように見受けられる。

地域

これも本件場外馬券売場に近い場所であるが、開催日、非開催日を通じて一〇ないし二〇台前後の路上駐車があり、開催日の日曜日(九月二日)は他の調査日に比べて若干路上駐車台数が増加しているものの、顕著な差異は認められない。

地域

同地域も本件場外馬券売場の北西方でこれに比較的近く、しかも前記国鉄東海道本線線路脇の道路であるところから、開催日、非開催日を通じて路上駐車が極めて多く、非開催日でも二〇台から四〇台を数え、それが開催日に至つては午前一〇時から午後二時頃までの間では五〇台から六〇台に達することもある。

地域

本件場外馬券売場の北西方、かなり離れた八幡町内であるが開催日、非開催日を通じて比較的多く、一〇ないし三〇台の路上駐車が見受けられ、なかでも開催日には昼中の駐車が特に多く、非開催日には夕刻時の駐車が特に多いのが目立つ。

(二) 右鑑定の結果に当裁判所の検証の結果と<証拠>を併わせ勘案すると、右路上駐車測定は本件場外馬券売場周辺の道路(、、、、)、或は原告らの住居に近い道路(原告大滝方に近い、、原告加藤方、同田畑方に近い、かつて原告佐合の勤務していた愛知機器株式会社に近い、原告阿部方に近い、原告安田方、同兵藤方に近い、、原告小野方の前の、原告金井方に近いの各地域)で施行されたものであるところ、、の各地域においては、開催日に被告競馬会の警備員による駐車規制があつたためか駐車台数が極めて少なく、これに対し、、、、、、の各地域、即ち本件場外馬券売場に近い八千代通の両側、或はこれに比較的近い線路脇、町内の道路では、右開催日において二、三の場所では駐車が激増し、その他の場所においても非開催日との差異があつて、本件場外馬券売場における馬券発売業務が原因し、影響を与えていることが明認できるけれども、右開催日において駐車が増加する時間帯は一日のうちの午前一〇時から午後二時頃まで昼中数時間のことであり、夜間や朝、夕においては右の影響は認められない。

2  交通渋滞について。

鑑定人富永正文の鑑定結果と<証拠>によると、同鑑定人は前記1(一)と同一の期日(昭和四八年九月一日、二日、四日、六日、八日、九日)に別紙調査地点・地域一覧表示、の各十字路交差点において、別紙交通渋滞度計測要領記載の方法により、東西南北各方向から進行して来る自動車についてその各交差点前における交通渋滞度を測定したところ、右要領に示す「交通渋滞基準1ないし5」の数値で顕われた結果は、開催日については、九月一日(土曜日)に、交差点において北方からの進行車輛が一〇時三〇分から一一時及び一二時三〇分から一三時の各調査時間帯において数値「2」を、九月二日(日曜日)には、同交差点において西方から進行車輛が午前一〇時三〇分から一一時において数値「2」をそれぞれ示したほかは、いずれも数値「1」であつて、この数値自体からして右開催日に交通渋滞と目すべき状態があつたとは認められないのみならず、逆に非開催日の九月四日(火曜日)に交差点において数値「2」が一〇回、数値「3」が三回、同じく九月六日(木曜日)に同交差点において数値「2」が二回、右同日交差点において数値「2」が一回、その他はすべて数値「1」が示されている(なお、非開催日の九月八日(土曜日)、九日(日曜日)もすべて数値「1」である。)のとも対比し考えると、少くとも調査期日中においては、開催日に来場する競馬フアンの自動車が前記八千代通、尾頭橋通において非開催日に増して交通渋滞の原因を作出しているとは認められない。

3  騒音について。

(一) 鑑定人富永正文の鑑定結果によれば、同鑑定人は前同一の期日に別紙調査地点・地域一覧表示AないしIの合計九地点において別紙騒音測定要領記載の方法により右各地点での騒音を測定したが、右測定の結果に基づいて、AないしIの九地点の中央値の集散状況、上限の最高値を整理すると次の第一表、第二表のとおりになることが認められる。

(二) 右各表と前記鑑定の結果中AないしIの九点についての「騒音測定結果に基づく算出各値」の各表によると、C、Fの二地点では高騒音レベルが多く、B、H、Iの各地点では比較的低(騒)音の比率が目立つ(以上第一表)。しかしながら上限値の分布で見ればC、Fの二地点において全く開催、非開催の各日の間に差異が見られず、また最高値の時間帯も、馬券発売時間以外の時間帯に多いことが明らかである。

各地点毎に日別変化をみると

A地点……上限値でみる限り非開催平日及び同土曜日が開催土曜日に比べ遙かに高い。開催日曜(二日73フオン)と非開催日曜(九日65フオン)との比較では相当に差があるようであるが、いずれも発売時間帯でない(18.00)。

B地点……上限値でみると非開催の平日の数値が非常に高い。

C地点……八千代通に面しているため、中央値で70フオン、上限値は75フオン以上を示している。非開催土曜(八日)が上限値のうちでも最も高い。

D地点……上限値でみると非開催土曜(八日)が最も高い数値を示している。

E地点……上限値でみると、非開催土曜(八日)に最高値を示し、C、D地点と同様の現象である。中央値でみると開催、非開催を問わず、殆んどフラツトな状態である。

F地点……上限値は高い数値で概ね統一されている。中央値も非開催、開催日を問わず、フラツトである。

G地点……非開催日曜日(九日)が相当低い(上限値)が、土曜日は開催、非開催による差異が殆んどない。非開催平日が著しく高いのは、A、B地点と共通である。

H地点……開催土曜、非開催平日の上限値が高いのが特長である。

I地点……開催、非開催を通じ中央値は比較的均一化している。

(三) 以上の調査結果と<証拠>とを総合して検討すると、本件場外馬券売場の近傍ないしその周辺の前記九ケ所における日中の騒音は、さきに前記1項に見たとおり、自動車による来場者のため開催日の土曜、日曜日の路上駐車が増加し、非開催日の平日、土曜、日曜日以上に本件場外馬券売場周辺の自動車の往来が激しくなると推認されるにもかかわらず、開催日だけが特に高い騒音になるという事実は窺われず、かえつて、非開催日に高い騒音のあることすら認められる。

原告らは、右の点については前記鑑定の結果が矛盾し、信用し難い旨非難するけれども、前記2項のとおり主だった八千代通、尾頭橋通の交差点において開催日でも交通渋滞の現象が殆んど認められないこと、本件場外馬券売場のすぐ北側を国鉄東海道本線、同中央本線、名鉄本線の三線の列車、電車が繁く往復通過し、この地域に自動車以外の交通機関等による騒音の存在が認められること、更にこれに関係する騒音増加率逓減の法則等を勘案すると、右非難は当らず、前示鑑定の結果は採用するに足るものというべきである。

第一表

(各地点の中央値の集散状況)%

地点

A

B

C

D

E

F

G

H

I

音量

40フオン台

17.1

2.9

8.6

50フオン台

68.6

25.7

31.4

65.7

60.0

54.3

77.1

60フオン台

31.4

31.4

62.9

68.6

28.6

85.7

37.1

34.3

11.4

70フオン台

25.7

37.1

5.7

14.3

2.9

8.6

2.9

第二表(各地点の上限値の最高値)

(カツコ内は時刻、「開」は開催日、「非」は非開催日)

地点

A

B

C

D

E

F

G

H

I

調査日

9/1開

69

(18.00)

79

(14.15)

76

(10.30)

(18.30)

71

(14.45)

73

(10.30)

(18.30)

80

(18.00)

75

(8.15)

81

(10.45)

69

(11.00)

(17.00)

9/2開

73

(18.00)

74

(12.15)

76

(16.30)

70

(12.45)

71

(14.30)

78

(18.00)

74

(12.15)

73

(8.45)

70

(19.00)

9/4非

75

(10.00)

81

(8.15)

77

(16.30)

70

(18.45)

78

(16.30)

(18.30)

84

(10.00)

(18.00)

82

(18.15)

83

(16.45)

(18.45)

83

(19.00)

9/6非

75

(8.00)

77

(14.15)

76

(12.30)

(14.30)

70

(8.45)

76

(18.30)

81

(12.00)

(16.00)

80

(18.15)

84

(18.45)

74

(19.00)

9/8非

79

(8.00)

73

(8.15)

(10.15)

78

(14.30)

(16.30)

74

(10.35)

81

(18.30)

79

(12.00)

74

(8.15)

77

(18.45)

70

(11.00)

9/9非

65

(10.00)

(18.00)

62

(12.15)

74

(18.30)

68

(16.45)

73

(14.30)

78

(18.00)

68

(12.15)

(16.15)

74

(8.45)

70

(13.00)

(17.00)

二そこで、原告らの主張にかんがみ、本件場外馬券売場開設後における原告ら居住地域の実状について検討してみる。

この点について、原告安田行成は、右地域周辺には八幡小学校、山王・伊勢山各中学校が存在し、本件場外馬券売場の開設は右小、中学校の児童生徒の教育上悪影響を与える旨、また、競馬開催日に集まる多数の競馬フアンの自動車によつて、周辺道路が混雑、渋滞し、家の出入りに困るなどして商売を妨げられ、その他集散するこれら競馬フアンが負けた馬券や煙草の吸殻等を道端に捨てたり、放尿するなどするため不潔、不衛生であるばかりでなく、右吸殻によつて火災が発生する危険がある旨供述し、製函業を営む証人加藤吉眞佐(原告加藤一成の長男)は、開催日には自動車の混雑で、空気が汚れ、騒々しいばかりでなく、自家営業日でもある土曜日には、注文があつても自動車による配達ができず、また、そのために取引先からも苦情を言われたこともあり、子供の外出も危険でさせにくく、更に、山岸ダンボールに近い堀川端で枯草が燃えて消防署に報せたこともあつた旨供述し、また、クリーニング業を営む原告阿部舜一は、自家営業日には商売用の自動車を店の前に駐車できず、営業上支障を来たしたと述べるほか、通学する生徒らが捨ててある馬券を拾つて学校で競馬ゴツコをして遊ぶとか、近くの事業所の従業員らも競馬の話に興じて作業をおろそかにするという話を聞いたことがあると訴え、昭和五〇年頃まで自動車解体業に従事していたという原告金井謙次は、自動車による混雑、商売上の迷惑、ゴミ屑の散乱等が予想以上にひどいものであつたと強調するほか、競馬フアンによるおびただしい自動車の往来、混雑、駐車のために解体自動車の工場への運搬により多くの時間を要し、或は困難するなどのことがあつて、前記自家営業に対する支障が大きい旨供述し、その他昭和四八年一二月まで本件場外馬券売場の近くに居住し、クリーニング取次業等をしていた原告中村立は、前記自動車の混雑のため土曜、祭日に取次物の集配に来る会社の自動車や来客が日中の時間を避けて来るようになり、商売に影響しているほか、静かな日曜日の休息ができなくなつたので、引越しをした旨供述している。

そして、<証拠>と検証の結果によれば、右検証施行の昭和四六年一一月一四日を含め昭和四五年四月ないし同四七年三月の競馬開催日には、本件場外馬券売場に近い八千代通(大通)、これに交差する尾頭橋通をはじめとして、国鉄東海道本線等線路南側の西古渡町、八幡町内の道路には、馬券購入のために来たと思われる人の乗用自動車が実に多数往来し、或は駐車している(そのため原告らを含む一部住民は自宅前に駐車禁止などの掲示をしている。)ほか、それに極く近い八千代通に架つた歩道橋や堀川端の道路を競馬フアンが列をなして往来し、また、近傍の道端等でいわゆる予想屋を囲んで人の群つている様子を現認することができ、これらの情況からすると、前出原告本人、証人らの各供述は、当時における競馬開催日の本件場外馬券売場周辺一帯の道路が、その開催時間帯の頃その来場者のため自動車・人の往来、駐車車輛等により混雑を極め、原告らを含めその付近住民がその私生活ないし自家営業(特に土曜日)に迷惑を蒙り、また、その騒々しさから日曜日本来の平穏さを欠き、紙屑等の投棄や放尿等によつて不潔、不衛生を感受したとの限りにおいて措信するに足り、右事実を肯認することができる。

しかし、原告ら住民の被害が、それ以上に著しく、空気が汚れ、土曜日の自家営業に甚しい支障を来たし、或は捨てられた煙草の吸殻から火災が発生し、更に地域の小、中学校の児童・生徒にギヤンブルの好奇心を与えるなどの悪影響を及ぼしているかのように供述する点は、前説示の鑑定の結果による開催日における車輛渋滞度、非開催日と比べた騒音の程度、その他<証拠>に照らしてにわかに措信することはできない。<証拠>もこの判断を左右する資料とするには足りない。

三ところで、なお本訴係属中におけるその後の環境事情について言及するのに、<証拠>を総合すると、本件場外馬券売場周辺の住民は、八熊学区連絡協議会や八熊学区環境浄化推進委員会の名で、その設置反対を含めて競馬開催日における同地域の違法駐車、交通混雑、教育環境等の諸問題に対する対策を協議し、被告競馬会に要望するなどの運動を続け、他方被告競馬会も昭和四七年以降環境整備実施要綱、事業所周辺環境整備実施要綱を制定し、更に昭和五〇年には地元協力費交付要綱を制定するなどして中央競馬会の競馬の開催(場外発売を含む。)に起因する交通の混雑、渋滞等の防止、排除、その他競馬場及び場外勝馬投票券発売所周辺の被告競馬会の業務施行と関連する必要な環境改善に積極的に取り組み、これに伴い、被告競馬会は本件場外馬券売場についても、昭和四七年頃から周辺道路の新設、舗装整備、交通安全施設の充実、公園等の緑化事業等を自らの費用で名古屋市をして逐次実施させ、昭和五一年頃までには直近西古渡町南部のみならず、ひろくその周域に到るまで右の道路整備等が行なわれて道路環境が改善されるに至つたほか、これら事業の推進に併わせて、競馬開催日における自動車の混雑、町内道路への進入、駐車等を回避するため、所轄警察署に右所要道路における駐車禁止、一方通行等の交通規制を依頼してその措置を講じてもらい、また、被告競馬会自ら本件場外馬券売場に広い駐車場を設置するとともに、電車、バス等による来場を呼びかけて、市内主要駅からの専用無料バスを運行し、その他八千代通沿道等重要道路に多数の警備員(ガードマン)を配置して交通の整理に当らせ、また、清掃夫をして周辺の西古渡町四、五、六丁目、堀川東側一帯の清掃作業に当らせており、これらの措置により開催日における前示交通の混雑、駐車、紙屑の投棄、放尿等による地域住民の迷惑はかつてに比べてもかなり緩減されていることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

第六差止請求等の根拠について。

一環境権の主張について

原告らは本訴差止(場外馬券発売禁止)及び損害賠償の各請求の根拠として、環境権の存在を主張する。

まず、原告らは、環境権を「良き環境を享受し、かつ、これを支配しうる権利であり、更に、人間が健康で快適な生活を求める権利である。」と意義づけ、その実定法上の根拠を、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する旨規定した憲法二五条、幸福追求の権利を有する旨規定した憲法一三条に求めうるかのように主張するが、これらの規定は、右各条中の爾余の文言からも明らかなように、国の国民一般に対する政治、行政上の責務を定めた綱領的規定であつて、それ自体を所論の環境権の実定法上の規定と解し難いばかりでなく、文理上も右各規定が右環境権の権利概念を予定し、或は想定していると解するのは難しい。また、原告らは、右環境権を人格権の延長線にとらえうる一種の抵抗権としての性質をもつたもので、企業体に対して良き環境の確保を要求しうる権能を含んだ生存権的基本権の一面を有するとともに、右企業体からの環境侵害を守るための社会的基本権の側面をもつた実定法の予期しなかつた新しい基権であるとも主張するのであるが、右主張は、その論拠を理解し難いばかりでなく、憲法その他の実定法上の法理を飛躍した独自の見解であつて、とうてい首肯し難い。

原告らは、環境権の性質、効果について、一つの環境を形成している一定地域の住民のすべてに平等に分配された地域住民全体の共有の権利であり、その環境破壊をもたらす侵害行為に対しては、具体的な損害の発生いかんにかかわらず、私法上の権利として予防ないし排除の請求をすることができる旨主張する。しかし、所論がここでいう「環境」とは、抽象的には住民をとりまく一定地域及びその周辺の物又は状態であり、それには道路・河川・建物・交通機関等公物、私物を含めた物的施設、水・大気・日照・海・山・動植物等の自然事象、更にはここに居住し、或はこれらを利用する人間関係などの一切が含まれるが、これらの要素にはそれ自体流動的なものがあるばかりでなく、この環境には具体的には当該住民にとつて良好、不良或は普通の三様があつて、必ず良好の環境とばかりいえないのみならず、その評価は、帰するところ多数の住民の個々の意思に待つべきものであるところからすれば、それら住民の年令・職業・思想・文化等による差異があつて一定でないのが通常であり、このような多様かつ不特定な事象に対して、評価も一定、普遍を保し難い個々の地域住民について全体に共通の共有による排他的支配権を与えようとする思考事態矛盾を含み、論理的でないといわざるをえない。所論は、前記のとおり人が幸福を追求し、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利があるとの憲法上の規定を理由に、良き環境に対してこれを利用、享受しうる権利がある旨主張するけれども、仮にその住民をとりまく一定地域の生活環境が良好、便利なものであつたとしても、それは前述の自然現象のほか、そこに備つた公共的な設備・施策、文化的資産等に由来するものであつて、いわばこれらによる反射的利益というべきもので、その利益は民法その他の法令に根源を有する私法上の権利の範疇に属するものではない。もとよりその利益が個々人にとつてかけがえのない財産上の利益であり、或は生活上、身体上の利益である場合も肯認しうるところであるが、それは、右個々人の財産権或は人格権上の利益として法的保護を与えれば足り、ことさら環境権なる権利概念を構成する必要を見ない。その他、所論が環境権に期待するところの不可侵的で絶対的な予防・排除の法的効力は、その権利概念が瞹眛・脆弱であるのに比して過大・強烈であり、現今の社会共同生活での法律関係を律するに妥当でないばかりでなく、法律の解釈としてもその域を脱し、かつ、本末転倒の議論との批判を免れず、とうてい左袒することができない。

従つて環境権を私法上の差止及び損害賠償の各請求権の根拠とする原告らの主張は採用することができない。

二人格権について。

ところで、個人の生命・身体の安全、精神的自由は、人間の生存のための基本であつて、法律上絶対的に保護されるべきものであることは疑がなく、肉体と精神からなる人間個々に対するこの保障は憲法一三条の規定をまつまでもなく、自然的基本権として当然のことであり、従つてまた、このような、人間個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、右個人の人格に本質的に付帯するものであつて、その総体を人格権ということができ、この人格権を何人もみだりに侵害することが許されず、その侵害に対して右の人格権にこれを排除する権能が容認さるべきことは、前示自然的基本権の性質に照らして肯けるばかりでなく、実定法上も人間の属性である物権について予防・排除等の排他的権利が認められていることと対比すれば、むしろ当然と解すべきである。すなわち、人は、疾病をもたらす等の身体侵害行為に対してはもちうん、著しい精神的苦痛或は著しい生活上の妨害をもたらす行為に対しても、民法に明定する損害賠償のみならず、その侵害行為の予防、排除を求めることができるものと解すべきであつて、これが人格権に私法上の差止請求権を認めるゆえんである。

被告らは、このような差止請求の根拠としての人格権を肯定するには実法上の根拠を欠くと反論するが、右述の理由からこれを実定法上の権利として構成するのに妨げはないものと解すべく、民法七二三条の規定はその一端を実定法に示したものというべきである。もつとも、従来人格権の語をもつて名誉、肖像、プライバシーあるいは著作権等の保護が論ぜられることが多かつたことは所論のとおりであるけれども、それは、人格的利益のうちの右のような側面につき、他人の行為の自由との抵触及びその調整を問題にすることが特に多かつたことを意味するにすぎず、その一事をもつて前示人格権構成の法理を否定する論拠とは解し難い。

しかしながら、現今の社会共同生活の中においては、ある者の活動に基因して他の者が社会生活上何らかの不利益を受けているというだけで、直ちにその者に対する違法な人格権の侵害があつたということはできないのであり、右人格権の違法な侵害があるとして損害賠償の請求権を認め、或は差止の請求権を認めるためには、右の各場合に応じ、その行為の態様、目的、公共性等、更には被害者の受ける不利益の性質、程度等諸般の事情を比較衡量したうえで、その被害が社会生活上受忍すべき限度を越えているか否かを判断することを要し、右受忍限度を越えた場合に初めて右の各請求権の行使が許容されるものと解すべきである。

第七原告らの本訴差止(場外馬券発売禁止)及び損害賠償の各請求の当否について。

原告らの環境権の主張がそれ自体失当で、これに基づく右各請求がその前提において理由がないことは前項第六、一の説示から明らかなところであり、そこで以下、前項第六、二の人格権に基づく右各請求の当否を右述の受忍限度論の見地に立つて検討することとする。

前示認定のとおり本件場外馬券売場周辺は本来建築基準法の工業地域又は商業地域に属する市街地区であり、しかも、別紙図面のとおりそのほぼ中央部を幅員約五〇メートルの八千代通(江川線)が南北に走つていて、地点の騒音測定の結果からもわかるように、右道路沿道は、日中においては平日でも競馬開催日と変らない中央値七〇フオンを示し、平常かなりの騒音が認められると同時に、相当の車輛交通量があると推認され、また、右地区の他の殆んどの地点でも開催日の土、日曜と非開催日の平日とで特に差のないそれに近い騒音の高さが示される状況にあつて、少なくとも騒音に関しては、本件場外馬券売場の新設によつてより高い騒音数値をもたらしたとの証明は得られず、なんとなく開催日には騒々しいという迷惑感のほか、具体的に右騒音によつて原告ら住民が身体的、精神的に被害、打撃を蒙つたとの証明もない。

もつとも、本件場外馬券売場の設置以降土、日、祝日の開催日に多数の来場者が自動車等で詰めかけ、なかんずく前記道路整備、駐車場設置、交通規制、整理が行届かない数年間は、右周辺地域の至るところの道路端に自動車を駐車させ、これら非開催日を超える数量の駐車によつて原告ら付近住民が住居の出入り、道路の交通に不便を来たし、なかでも、その一部自家営業者は、営業日の土曜日には、右営業用の自動車の自宅前への駐車、出入りに困難を来たし、右営業に支障を生じていた事実が窺えることは前認定のとおりであり、その他これら来場者による紙屑、煙草の吸殻の投棄、放尿等によつて周辺の道路や民家の庭先が不潔、不衛生になつた事実が窺えることも右同様である。

しかし、これら生活上ないし営業上の迷惑ないし妨害は、それ自体その地域の住民であり、また、住民であつた原告らにとつて、その生命、身体、自由にとうてい耐え難い程度のものといえないばかりでなく、その期間も年中、終日ということではなく、競馬開催の週七日のうちの土、日曜日、或は祝日の日中午前一〇時頃から午後三時頃までの比較的限られた日限、時間帯におけることであり、それに原告ら反対住民に優る地元商店会等の誘致運動があつて本件場外馬券売場が移転設置された前示の経緯や被告競馬会の業務の公的性格、更に、これもさきに認定したとおり、前記開催日における来場者の混雑、迷惑駐車、不衛生等が、昭和四八年頃以降被告競馬会の環境整備事業の実施、駐車場の設置、警備員の配置、所轄警察署への交通規制の依頼等によつて逐次改善され、該地域周辺の道路整備と環境浄化がとみに進み、前示被害も開設当初数年に比べてもかなり緩減されている現状をも併わせ勘案すれば、原告らの右被害が差止(場外馬券発売禁止)を求め得る程度にその受忍限度を超えているとは到底認め難いのみならず、それが右開設当初から現在及び将来を通じて原告らの慰藉料請求を認容すべき程度にあると認めることもできない。(なお、原告らのうち一部の者が既に本件場外馬券売場周辺の地区から転住していることは前述のとおりであり、右転住者については、所論人格権に基づく差止請求及び転住後における右慰藉料請求の各権利は、その限りにおいて失なわれたというべきである。)

従つて、原告らの人格権に基づく本訴差止及び損害賠償の各請求も認容することができない。

第八結語

以上の次第であるから、原告らの本訴各差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がないから、これらをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(深田源次 大橋英夫 久江孝二)

別紙図面、調査地点・地域一覧表、路上駐車台数調査表No.1ないしNo.7<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例